読書感想「晩年」太宰治著


 タイトルから言って、太宰の最後の方の作品集なのかなぁと思って読んだのですが最初の方でした(笑)

 一番はじめの「葉」は、
-歩道の上で、こぶしほどの石塊がのろのろ這って歩いているのを見たのだ。石が這って歩いているな。ただそう思っていた。しかし、その石塊は彼の前を歩いている薄汚い子供が、糸で結んで引き摺っているのだということが直ぐに判った。
 子供に欺かれたのが淋しいのではない。そんな天変地異をも平気で受け入れ得た彼自身の自棄が淋しかったのだ。-引用

 
 この部分で強烈に惹き付けられました。これは凄いオープニングヒットを貰っちまったな、と。当時、出たばかりの頃にこれを読まされた人は、どんな感想を抱いたのだろう。おそらく、凄い才能が出たと感じたのは間違いないのではないだろうか。

 
 兎にも角にも、上の引用文は秀逸だと思います。もう、たった数行のこれだけの文で、取り残された孤独のようなものが、ひしひしと伝わってくる。

 まずは石ころが這って歩いているという、不可思議な光景を俯瞰から写実的に描写して、今度は感情を欠いて主観を不完全に描写する。こうする事で、主人公がとても不安定な状態に置かれている事を表す。

 更に、薄汚い子供が、と半分主観を入れて一段高い位置に立って言う事で、高い身分にいたか、いるという事がわかる。

 騙されたと言いながら怒るでもなく、不思議な光景を何の疑いも無く受け入れてしまった言う。
 特徴は、主観と客観が入り混じっている点にもあります。直ぐに判ったと主観的に述べておきながら、最後では彼自身の自棄が淋しかったのだと、客観から突き放している。
これから性格としては抑圧的であり、且つ客観的に見ようと努力している人物であることが判る。
 
 この短い文で、彼の置かれている状況、身分、性格を不完全さをも利用して見事に語っている。

 非常に見所のある作品です。

 
 あとは、「人間失格」を書き上げる為の序曲とでも言えばいいんですかね?もう既に読んだ後だったので物足りない感じです。あの作品を読む前にこれらの短編を読んだら感想は全く違うものになっていたと思います。

 太宰が生涯を掛けて何を描きたかったのかが、何となく見えてきた気のする作品集でした。