割り込まれるのは突然に
その悲劇は突然、訪れました。
いつだって出会いは突然です。
恋に理屈なんか必要ありません。そう。互いを惹きつけ思いあっているという事実が重要なんです。
ええ、当然ですが今回の話に恋愛要素なんかこれっぽっちも含まれていません。
存在するのは不平と不満と、あいつに何か不幸なこと起きろ!という純粋な憎しみだけです。
その日はいつも通り平和な日常を送りスーパーで晩のおかずを買おうとレジに並んでいた時に起こりました。
混乱の元であるレジ前の並び
スーパーのレジは2台並んでいるのですが、それぞれ別々に並ばないといけないというバトルの原因にしかならんだろ?という特殊な配置になっています。
そこに嫌だなぁ、怖いなぁ、ヤクザに絡まれたら嫌だなぁと思いながら並びました。
レジ1ではおばちゃんが会計に何か不備があったか何か知りませんがレジのおばちゃんを静かに怒りながら詰めています。
もう1台のレジ2ではかご一杯に詰めた商品の会計をしています。
私はレジ2の並びの後方に陣取りレジ1が空いたら即すぐ移れるように下心丸出しで並びました。
もちろん、レジ1の列に誰か並んだら潔くレジ1の可能性は諦める。私の後ろに誰か並んでも諦めてレジ2に絞るという覚悟を決めてのものです。
そんな所にです。
なんと私の前に割り込んで来る奴がいたんです。
色黒で顔色が悪いのが印象的な背丈180cmオーバーのひょろ長い男です。
そして後ろから見て一番の特徴は頭が細長いじゃがいもみたいな男であったことです。
正直、肉弾戦だと勝て無さそうだと思いますし列に堂々と割り込んで来るような輩は狂人以外の何者でもないので普段の私なら枕を涙で濡らして終わりなのですが、この日は違いました。
いつもなら泣き寝入っている筈なのに...。
そう。後ろからそいつの頭を後ろから見ると長身でひょろ長い体と合わせるかのように頭も縦に長くなっている完全なるアイダホポテトのように見える珍奇な髪型が私の判断を狂わせたのです。
こんな愉快な頭をしている人なので悪い奴じゃないに違いない。
きっと貴方は気が付いていないと思うのですが、並んでいる列に割り込んでいますよと教えてあげれば「ごめんだポテト!」とか妙に甲高い声を出して言って後ろに並んでくれるかもしれない。
そうしたらこっちも「これも親切心で言うのですが、あなた奇妙な髪型をしているから普通の坊主にした方が良いですよ」と親切心で忠告してあげた上に事と次第によってはですよ。
アイダホ―♪
アイダホポテート♪
みーんな大好きアイダホポテートー♪
というオリジナルソングを進呈したって良い位に思っていたんです。
勇気を出してアイダホの原住民に注意してみる
そんな親切心から「あのー、並んでるんですけど」と言うと、何とじゃがいも野郎は驚くべきことに「並んでますから」と言って前を向いてしまいます。
でも私は頑張りました。
「いえ、あのー、この列の並びはこのテープで囲んだ所で私は後ろの方にいたんですけど」
ガン無視です。
ええ、私の話なんか全く聞いちゃいませんよ。
もうね。流石の私も頭に来ましたからね。
「おい!オマエふざけんなよ!並ぶ知性も無いのか?急いでっかも知らんけど、春植えじゃがの収穫は6月だから大丈夫だからよ。黙って家に帰ってそれまでクソして寝てろや!」
って心の中で言ってやりましたよ。
しかしですね。お陰でこっちの心もバッキリいってますからね。
折角、今日は平和な一日を過ごすことが出来たので帰ってから風呂に入ってビールで一杯やって気持ち良く眠ろうというプランニングが全て台無しで気付いたらこんなブログを書き散らかしている始末です。
そしていつも通り泣き寝入ろうとしている所で気が付きます。
アイダホマンも被害者なのかもしれない
普通に考えれば列に割り込むなんてことは自分が列に並ぶ知性も無い精々がサル位の知能しか持たない頭の悪い人間なんですよとアピールしているようなものですから、普通だったら恥ずかしくて注意なんぞされれば自分の不注意を恥じて適当に謝って後ろに並び直すのが最善だと思うのですよ。
それが出来ないというのは何故だろうと考えて見ます。
振り返ってみるとあのじゃがいもはヘンテコな頭をしていました。
もしも同僚がああいったアイダホポテトみたいな奇天烈な頭をしていれば確実にいじります。
しかしあの顔色の悪さや人と話している時に人の目も見ないようなコミュ障ぶりを見ていると職場でも痛い奴扱いされて周囲から珍奇な目に晒されている可能性が高い。
そしてスーパーで列に割り込まれた人間は通常イラつきはしますが相手が狂人である可能性が高いと考えて大抵はスルーされます。代わりに割り込んだ人間は周りからコイツは並ぶことも出来ないアホなのか・・・。という視線を浴びることになるので、まともな人間なら居た堪れなくなる筈なのです。
しかしアイダホマンの場合、あのキテレツヘッドからして常日頃から周囲から珍獣を見る目に晒されている筈です。
そう考えると、アイダホマンは割り込んだことによって浴びる視線も、いつも通りカリスマ美容師(無免許)からお奨めされたこのオシャレ坊主のカッコ良さに注目を浴びちゃったぜ的なことを思っているだけで、私からの注意も変なおっさんが俺のカッコよさに嫉妬して言い掛かり付けられちゃったぜ位なものにしか思っていないのかもしれません。
普通、友人や同僚があんなヘンテコな頭をしていたら「オマエ、いい年してそのヘンテコな頭は止めた方が良いぞ」と注意している筈です。
しかし彼はそういったまともな人間関係を築くことが出来ていないようです。
そうです。彼はこの東京砂漠で独りぼっちの可哀そうな人なんです。
あの時もし私が食い下がって
「hey you!オマエの頭アイダホポテトみたいだな。俺も早くMr.アイダホマンの続きが見たいよ」
的なことを言っていたらウィル・スミス張りの張り手を喰らわされていた可能性が高いので、やはり自分の選択は間違えていなかったのだと確信しました。
ええ、もちろん朝起きたら枕はしっとりと湿っていましたよ。
それと、もしかしたら私は人間としての器がもの凄く小さいのかもしれません。
それでは今日はこの辺で