てへぺろおじさん

ダニングクルーガー効果が生み出した悲劇

前回はダニングクルーガー効果の必要性について書いたのですが、今回は勘違いすることも時に必要だけれど勘違いしたままでははいけないという話をします。

ダニングクルーガー効果について簡単に説明すると、何か専門的なことを学んだり習得しようとするとき新人は俺ってもしかして凄いんじゃね?と勘違いし、逆にベテランになると習得した知識と経験から自分に対して正しい現状認識を持てるので新人と比較すると自信の度合いが低くなるというものです。

ダニングクルーガー効果のことを知ると誰でも一人位は勘違い野郎が思い浮かぶのではないでしょうか。

私が思い出した例を一つ挙げます。

学生の時のバイト先で自分は歌が上手いと思っている歌の下手な社員のおじさんがいました。
その人は結構いい年をしたちょっと小汚いおじさんでもありました。
ある日、私はそのおじさんに奢ってやるからと居酒屋に連れて行かれて相談を受けることになりました。

内容は彼女と連絡が取れなくなったのは、なぜなんだ?というものでした。

それは振られたんですよと聞いた瞬間に私は正解を導き出してしまったのですが、いきなり正解を言ってしまうと「そうか、やっぱりな、ほな帰ろうか」となって私が人の金で刺身盛り合わせを貪り食うことが出来なくなってしまう恐れがあるので「そうですか、何故そのようなことが起きるのか理解に苦しみますね。詳しく話して下さい」と言って刺し身盛り合わせが出て来るまで面倒ですが話を聞くことにします。

そのおじさんはフィリピンパブが大好きでした。何でもそこで作った彼女だったんだそうです。

そこからおじさんの彼女への思いの丈を延々と聞かされます。
曰く愛を証明するためにフィリピンパブへと通い詰めた
曰くいくつものプレゼントを贈った

にも関わらず彼女と連絡が取れなくなってしまったのだそうです。

国に帰ったか別の客と結婚でもしたんでしょうね。そりゃあねえ遠い異国の地で頑張って手に入れたのが小汚いおっさんじゃ余りにも救いが無いって話ですよ。
事と次第によっちゃあ、おじさんを池に放り込めば池の女神さまにきれいなおじさんと取り替えて貰えるんじゃねぇか何て思われて投げ込まれてた可能性だってあるのです。そうならなかっただけ有り難いと思うべきです。と思ったのですが、そのまま伝えるのは流石に私の心が痛みます。じゃあここの飲み代はやっぱり割り勘ね等と言われては目もあてられません。

そこで話の着地点として彼女は謎の秘密結社にでも誘拐されたとかで決着出来ないもんか等とこっちが必死に考えていると、それも知らずにおじさんは「それとも別の店に移ったんやろうかぁ」等と宣います。いや、それだったら金蔓をわざわざ手放さずに移籍先の情報を教えてくれるだろうと身も蓋もないことを考えた所で気付きます。

あれ?なんでこのおっさん自分に彼女が惚れているという前提で話をしているのだろう?
怖い怖い怖い。これがストーカー思考というものなのか?
そこで、そのことを遠回しに聞くと教えてくれました。

おじさんには彼女が自分に惚れている確信があるそうです。
やっぱりストーカーでした。

と思ったら思わぬ言葉が続きました。
「ほら、ワシ、歌、うまいやんか?」
「え?初耳ですけど・・・」
「まぁまぁ、音痴の君には理解できんかも知れんけど、それとワシ、実はカラオケ教室に通い始めたんやけどな。そこの先生も才能ある言うんよ」

それはあなたが教室に通い続けないと小銭がチャリンチャリンと入って来ないからであって、それは世に言うセールストークというものでは?
あと、なんで私はさり気なく音痴だとディスられたのだ?
と思ったことは言わず「はぁ、そうですか・・・」と話を続けさせます。

何でも店で彼女に一目惚れしたおじさんは彼女の目を自分に目を向けるにはどうしたら良いか考えたんだそうです。
結果、自分にはプロ顔負けの歌唱力があると気付いたんだそうです。

そしておじさんは彼女の目を見て河村隆一の「Love is…」を歌ったと言います。
それを受けて彼女は「素敵、好きになたヨ」と目を潤ませて応えてくれたそうです。
「え?それは彼女の方からおじさんに寄って来たってことですか?」
「いや、ボーイさんに聞いて指名を入れたんよ」

典型的なセールストークです。

おじさん曰く「それで彼女は儂にメロメロになったんや」だそうです。
それを聞いて私は仮説をいよいよ確信に変えて予想を深堀りします。

恐らく彼女とおじさんが出会ったのは彼女が店を辞める直前位のタイミングで、おじさんが歌うのを見て「野郎!カモがネギ背負ってきやがったぜ!」と思って最後の小遣い稼ぎをしたのでしょう。

後日おじさんがフィリピンパブの店長に彼女のことを聞いたらフィリピンに帰ったって言われたそうです。

正にダニングクルーガー効果が負に働いたが故の悲劇です。

おじさんの歌は下手でした。しかしフィリピンパブの嬢たちは自信満々で歌うおじさんを適当におだてます。それに気を良くしたおじさんはブタもおだてりゃ木に登るの格言通り調子に乗ってカラオケ教室に通い始めた挙げ句、更にそこでもセールストークに乗せられて小銭を巻き上げられた挙句、歌う専門知識と専門教育を受けたという自信満々の歌があんまり上手くないこ汚いおじさんが出来上がってしまったのです。

おじさんにとって本当に必要だったのは「おまえ歌へただな」と言って冷水を頭からぶっ掛けてくれる人だったのです。
やはり正しい現状認識というのは重要です。

後日談~

おじさんは彼女のことを思い出すと辛くなるからと言って別のフィリピンパブに通い始め、そこで見つけた別の嬢と結婚しました。

やっぱり歌で口説いたんですか?って聞いたら「あの店カラオケあれへんねん。しゃあないから地道に店に通ったわ。そんで仕方ないから良い仲になってからカラオケには行ったんやけどな、アイツ、ワシの歌は下手や言うて褒めてくれへんかった」と言ってがっかりしてました。

それを聞いておじさん良かったね。と思いました。

それでは今日はこの辺で