太宰治と聞くと先ずはこれが思い浮かぶ人が多いであろう「走れメロス」の収められた短編集。
中身はさすがは太宰という中身の濃い作品が多かった。
「走れメロス」
内容は自分が戻らなければ親友のセリヌンティウスが暴君ディオニス王に処刑されて死んでしまう。そうさせない為にメロスは懸命に走る。
太宰治の著作だと知らなくても話の内容だけは知っているという人も結構いるのではないでしょうか、
さわやかな読み心地で、ハラハラしたり感動したりと太宰にしては珍しく小さな子供にでも読ませたい友情と人を信じる大切さを説いた名作(笑)
他にも短編がいくつか入っています。
自身の体験と重ね合わせて、自身の挫折や堕落とを富士の光景になぞらえて描き出した「冨嶽百景」
同じく、東京での挫折のかなしさを描いた「東京八景」
男女の危ういバランスを描いた「満願」
聖書をモチーフにした「駆け込み訴え」
一人の女生徒の語りで進行していく「女生徒」
他にも実家との和解を描いている「帰去来」「故郷」
全体の感想としては今まで太宰治というと「人間失格」「斜陽」のイメージで読み始めたので意外に感じました。
僕の持つ太宰という人のイメージは温い絶望といえば良いのでしょうか?
お金持ちで顔も良くて勉強も出来るんだけど、
生きる上で必要とされる核のようなものを持ち得ていない。
生きていたいという想いと同時に滅びる事を望むといった矛盾を抱えた、
低温火傷みたいな痛みを胸に抱え続けた人というイメージだったんですけど、
そのイメージが少し変わりました。
特に「走れメロス」「駆け込み訴え」は正に芸術を志して動き出したという躍動感さえ感じられます。
もしも太宰がこの方向性の作品を描き続けることが出来たら、
それも間違いなく歴史に残る名作が出来上がったのだろうな、と思う。
まぁ、そうしたら「人間失格」も描かれる事は無かったのだろうから上手くいかない。
(読んでいたものが絶版になっていたため代わりに貼りつけさせて貰います。他にも紹介作品は青空文庫でも読めますので、そちらを読んでみても良いと思います)