新聞の苦境

打ち捨てられた新聞 社会派気取り

朝日新聞が2021年3月期に441億円の赤字過去最大の赤字を計上したことが話題になりました。
昔は新聞を取るのが当たり前でしたが今はニュース等の情報はネットで済ませていると聞くのも珍しくなくなりました。

新聞の発行部数について日本新聞協会の発表です。
2000年53,708,831部
2022年30,846,631部

2022年度の新聞発行部数は2000年の僅か57%程度しかありません。
20年でおよそ2200万部の減少です。

「近代日本のメディア議員」という書籍を読んでるのですがタイトル通り議員とメディアとの関わりを書いており同時にメディアの歴史についても語られています。
今回はその中でも新聞に絞って書きます。
「近代日本のメディア議員」の中でも「政治のメディア化の4局面」という部分が興味深かったので取り上げてみたいと思います。

第一局面 政治家が自らの理想や政策を掲げて新聞・雑誌を発行している政論を執筆している「政論新聞」が主流の時代。要は自分の考えを発信する為にメディアを運営している状態。

第二局面 政治システムの監視や中立的な報道を行うことが評価される、詰りは世間一般でいうプロフェッショナルなジャーナリストが評価されるようになる段階。
プロのジャーナリストとして客観的で中立的な報道を目指すようになる。
政治家が自分の意見や政治的なメッセージを伝えるために発行されていたものが、この頃から一般の人々からの信用が高まることでジャーナリストから政治家になるケースが出て来る。
実際に政治家が元新聞記者と聞いても今では特に珍しいとは感じない程に一般化しているように感じますし一般人の描く理想的な新聞のイメージはここなんじゃないかと思います。
記者から政治家になった例を挙げると首相経験者に限っても第85、86代の森喜朗氏は産経新聞、細川護熙氏は朝日新聞の記者でした。

第三局面 マスメディアが企業として発展。メディアの社会的影響力の最大化を求め、その目的は読者・視聴者層の獲得。
(この本の著者はそれをコマーシャリズムと呼んでいるのですが、そこにはメディアに対する皮肉と幾分かの失望も込められているのではないかと勝手に想像しています)

第四局面 政治家がメディアテクノロジーの発展によってマスコミだけに依存せずに自己発信によって「自己メディア化」を展開できるようになる。
今までの新聞や雑誌といったメディアも存在しているが政治家の依存度は異なる。
政治家の河野太郎氏や米国大統領のトランプ氏はSNSを上手く使って自己をメディア化している印象を受けます。

政治家は以前と変わらず自分の政治的な意図を発信する必要があるのですが、それは少し前まで新聞やテレビといったマスメディアに限られていたものがSNSの出現で政治家が自分で発信することが出来るようになりました。
そのため新聞やテレビ、雑誌といったメディアへの依存度が相対的に下がっているように見えます。

また第三局面の頃は新聞等のメディアの力が大き過ぎて誤った情報発信を行ってもそれが正しいものとして世間に認識されることも多かったように思います。
それが今では政治家がSNSで間違いを指摘することで自ら訂正されることも近頃では珍しくありません。
そういった影響もあってか新聞の信用度は下がり続けているように見えます。

嘗ては政治家になるための登竜門となっていたようなのですが、その数は減少しているようです。
元読売新聞で政治部部長編集局次長を務めた後に国会議員に転向した安藤覚氏は友人に議員として立候補する前に友人に議員になると収入が減ってしまうので困ると相談を持ち掛けていたという逸話があります。いつの頃からか新聞記者の給与が高額となってきたことで安定を考えるなら政治家よりも新聞記者のままでいた方が良いという事情もあるようです。

しかし新聞社に勤める人間に支払われる給与は主に新聞の売り上げと広告収入です。
新聞の購読者数が減れば広告の効果も落ちますから広告を出す会社も減ることになり両者は相関して減少することになります。
そうなると新聞社は記者を始めとした社員の給与を支払う為に何処かから収入を得る必要が出て来ます。
なぜなら利益の出せない企業はやがて従業員に給与の支払いが出来なくなり、その状態が続けば倒産するしかないからです。

そんな状態のメディアに例えばスポンサーとして資金を出す代わりに自分にとって都合の良い報道を行うように依頼したらどうなるのでしょう。
収入が確保出来ていればメディアは要求を断れます。
何故なら要求を受け入れたことが露呈すれば収益源となる読者の不利益に繋がり、読者が減ることに繋がり結果的に自分たちの首を絞めることが明白だからです。
これが読者数が減少していることで収入を確保出来ない状況の中で持ち掛けられた場合どうなるでしょうか?

新聞は先に紹介した「政治のメディア化の4局面」でいう所の第三局面で培ったメディアとしての影響力と信用も第四局面に入りインターネット・SNSの影響で相対的に薄れ続けているのが現状だと思います。
このまま行くと新聞はプロパガンダの一環として新聞を利用したい企業や国等に今まで培ってきた影響力や信用を切り売りすることになり、やがて特定の組織にとって都合の良いフィルターの掛かった情報を垂れ流すだけの代物に成り下がるのではないかという懸念を抱きました。

新聞の不買運動なども散見されるのですが新聞メディアに対して平等で適正な報道を求める場合に一番有効な手段というのは新聞の購読を行い安定的な収益を与え、加えて読者が適正な報道を求めることを常にフィードバックすることが有効な手段であるのかもしれないとも思うのですが、実際にこれを行うにはどうしたら良いかと考えると有効な手段も思いつかず難しいです。

新聞の批判というと朝日新聞が矢面に立つことが多い印象なのですが、その朝日新聞は赤字額を更に増やしました。

朝日新聞は21年3月に続いて21年6月の株主総会で更に赤字額が膨らみ458億8700万円の創業以来の赤字額であること発表しました。
やはり紙媒体の不調が主な要因となっているようです。
更に23年度末までにおよそ4000人の社員から300人以上減らす予定とあるので思った以上に事態は進行している様子です。

正直、朝日新聞についてはネットで反日だ赤日だと叩かれて忌み嫌われ疑念を抱かれている状態でコンシューマービジネスが成り立つのか?という疑問は抱いています。
以前はクオリティペーパーとも呼ばれた朝日新聞を知る身としては、これ程の苦境に陥るというのは驚きでもあります。
新聞の苦境は今後も暫く続いて行きますが今からでも顧客の信頼を取り戻して立ち直って欲しいとも思うのです。

それでは今日はこの辺で

参考資料