サム・アムミールをテロリストへと変えた怒りとは

ひび割れたガラス 社会派気取り

フランスのパリ同時テロの実行犯であるサムアムミールについて書いてから、なぜ彼はテロリストになったのかが気になっていました。

フランス特有の問題もあるかと思うのですが、その根源にあるのは「怒り」であると感じました。

では怒りとは何なのでしょうか?辞書で調べてみました。
怒り…おこること。はらだち。立腹。

どうやらこういった根源的な感情について端的に述べるというのは難しいようです。

自分なりに調べてみたものを書かせて貰います。

怒りの定義とは

挑発者に対する挑発の責任の感情的な難詰である。
従って怒りは挑発者の行為に責任を負わせる時にのみ生起する。
(Averill,1983)

確かに怒りを生起させた者に対して責任を求める気持ちが伴って現れるというのは納得できました。
例えば人から謂われのない中傷を受けた場合、その中傷した人物に対して怒りを抱きますし同時に正しい理解を求めます。
それが新聞などのメディアであれば訂正記事を掲載させる事で責任を求めるといった流れを思い浮かべると良いのかもしれません。

怒りを誘発するものとは、

・行為の妨害、状態の混乱と知覚されるもの
・怒りの源となる人物の社会的地位によって障害を取り除く事が困難である事。
・進行中の日常的な行為の阻止
・個人の権利の阻止
・個人的非難と名誉毀損
(Steffgen,1993)

どうやら欲求が達成されるに事に対する障害が怒りを誘発する傾向が強いようです。

それでは彼ら移民の立場になって見てみたいと思います。

・行為の妨害、状態の混乱と知覚されるもの
就職活動などにおいて希望の職種があるも、移民であることから断られる等

・怒りの源となる人物の社会的地位によって障害を取り除く事が困難である事
移民の人々で反社会的になるのは世代が移った2世からそうなる傾向が強いそうです。
彼等は自ら望んでフランスに来た訳ではなく、親が移民としてフランスに移り住んだ事によってフランスでの生活を余儀なくされており、言うまでもなく自身が望んだ結果ではありません。
だが移民として差別を受ける事となります。
ここに理不尽を感じて憤りを感じる事も多いのではないでしょうか。

また怒りの源となるものは特定の個人ではなく、言うなればフランスという国全体で醸成されたものであり、これを取り除く事は限りなく難しい。少なくとも個人の力では不可能であるように思えます。

・進行中の日常的な行為の阻止
以前、日本の芸能人であるガクトがフランスのレストランで景色の良い座席から隅っこの席に追いやられたといった事が以前ありましたね。
察するに移民である彼等も同様の扱いを受けているのではないかと想像します。

・個人的非難と名誉毀損
移民であるというだけで個人を見ずに差別を受けるというのは名誉を傷つけられ続けていたのではないでしょうか?

怒りの反芻作用について
怒りには自己の中で反芻される傾向があり、
更に繰り返される事で強化されて定着する性質があるようです。

これが延々と繰り返されていくと怒りから憎悪へと繋がり、更に他者に伝播されるとテロリスト集団などが出来上がっていくのかもしれませんね。

また、フランス国内の刑務所に入る事で過激派思想に触れる事で傾倒していく事も多いようです。
これには刑務所に収容される人員の割合についてもイスラム教徒の比率が高いという状況も関係しているようです。

怒りのコントロールについて

巷で怒りのコントロール方法は色々言われていると思うのですが、怒りの抑圧を目的としたものは繰り返し利用される傾向があり、状況対応としては確かに効果を発揮するようなのですが、その場しのぎのようなもので取り敢えず相手に謝るというような事を行っていると徐々にストレスが積み重なりやがて身体的、精神的にも悪い影響が出て来てしまうリスクがあるようです。

怒りをコントロールする為に

・適切な自尊感情の形成
・挑発への適切な対処能力
・攻撃や非難を解釈する能力
これらを持つ事が重要である
詰まるところ怒りのコントロールとはこれらを育む事であるとも言える。
また建設的に此の怒りを表現する事
(Verres & Sobez 1980)

怒りの表現について

怒りの表現には2種類あり
内への怒り(アンガーイン)と表現された怒り(アンガーアウト)の2種類がある
(Funkenstein et al.1954)

アンガーアウトとは
自由に開示的に表される怒り

アンガーインとは
怒りを表出させない
これは極端な場合は自分が感じている怒りの感情自体が否定される
特定の人物に対して攻撃的衝動が向けられる

思うに移民である人々が適切に怒りを表現するというのはかなり難しいのではないかと想像します。
怒りを表現する事によってフランス人と揉めるような事があれば、移民全体に圧力が掛かり自分だけではなく他の家族や同胞にまで不利益が広まる可能性があると考えると思慮分別のある人間ほど難しくなってくるのだろうと思います。

従って、怒りは内へと向けられるアンガーインとなる事が多くなり、特定の人物に向けられるはずだった怒りはやがてフランスという国全体へと向けられるようになるのではないでしょうか。

そしてアンガーアウトとして、
イスラム教徒はフランス内において厄介な移民として扱われています。
その彼等に対して同じ移民であるサムアムミール容疑者がシンパシーを抱く気持ちは分かりますし「イスラム国」という集団の持つテロリズムは怒りの表現としても最適だったのではないでしょうか。

怒りについて調べた事でサムアムミール容疑者がテロリズムに染まっていった理由の一端が分かった気がしました。

怒りとは繰り返される事で慢性化して自身を蝕んで行く事
それを適切に処理できずに抱え込む事は自己否定にも繋がり自尊感情を傷つけていく事

また自尊心を粉々に砕くように個人を否定する事は洗脳のテクニックの一つでもあるようです。

フランス国内においての移民への扱いは彼等の自尊心を削り続ける事となり、皮肉にもイスラム国などにとって洗脳しやすいテロリストを作る為の土壌を整える事に繋がっているのではないでしょうか。

パリ同時多発テロではサム・アムミールは何人かの命を犠牲にして自分も爆死しました。

罪の無い人々を犠牲にした事は決して許される事ではありません。
しかし移民として差別を受け続け、過激派に洗脳されて利用された挙句に命を散らしてしまうというのは、余りにもやりきれないように思えます。

そしてフランスの状況が変わっていないのであれば同じような人間が今も増え続けているのではないかという危惧を覚えました。

このような暴力の連鎖がなくなることを祈らずにはいられません。

他にサム・アムミールについて以前書いたものは下記となります。

パリ同時多発テロ事件実行犯サム・アムミールについて