この事件について週間文春さんの記事を見て思ったのは、なぜ学校はいじめが起きたという事実をこれほど頑なに認めないのだろう?でした。
校長がインタビューに答えているところを見ると、どの段階でかは知りませんが学校の教師達の中で情報共有が行われていたのは間違いないようです。
爽彩さんの一件については警察の介入もありました。
これをいじめではないと校長は答えています。
筆者は今回の一件をいじめという範疇を超えた犯罪行為と捉えているのですが校長は生徒間のトラブルに過ぎないという認識であると重ねて答えています。
そこで辞書で調べてみました。
いじめ:特に学校で弱い立場の生徒を肉体的または精神的に痛めつけること
トラブル:いざこざ、やっかいなこと
(広辞苑より)
肉体的な苦痛:加害者達に川に飛び込ませられる
精神的な苦痛:加害者から自慰行為を画像にするよう強要されて、それを加害者間で共有され実際に目の前でそうするよう強要される
これはいじめではないのでしょうか?
敢えて言うなら加害者の行ったことはいじめの範疇を超えた犯罪行為です。
以上のことから考えて少なくとも「いじめ」が行われていたことは間違いないと思うのですが、こう思うのは筆者だけなのでしょうか?
どうも頭が混乱してきました。
文部科学省のいじめの定義です。
「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。「いじめ」の中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、早期に警察に相談することが重要なものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについては、教育的な配慮や被害者の意向への配慮のうえで、早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要である。
文部科学省「いじめの定義の変遷」
定義の中でも気になるのは太字部分下記二点です。
当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの
加害者は定義の中に当て嵌まり、被害者も心身の苦痛を感じているという面からも定義に当て嵌まっています。
(いじめの)起こった場所は学校の内外を問わない。
教頭は画像の拡散は校内で起きていないので学校で責任は負えないと母親に伝えています。
教頭は嘘をついています。発生場所は学校外も含まれ、その中にはインターネットも含まれます。
今回の事件はいじめの定義に該当しています。
他に学校の監督官庁である文部科学省はいじめについてどのような認識を持っているのか調べてみました。
いじめの防止などは、全ての学校・教職員が自らの問題として切実に受け止め、徹底して取り組むべき重要な課題である。
ー文部科学省「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント」
上記に加えて更にいじめに関する取り組みの指針に書かれる教育指導の項目には
・いじめを行った生徒へ他人の痛みを理解できるようにする指導を根気強く継続して行うこと
・他の生徒に対していじめをはやし立てたり傍観したりする行為も許されてないという認識を持たせること
他にもいじめを行った生徒に対して隔離、また限度を超える場合には出席停止処分を取ったりといったように指針には具体的に書かれています。警察との連携についてまで書かれていました。
何かと批判の多い文科省ですがいじめについての認識については間違いないように思えますし実際にいじめが起きても指針に沿って学校側が行動していれば解決していたのではないかと思いました。
学校側がいじめは起きていなかったことにして隠蔽しようとした理由は何なのでしょうか?
爽彩さんに対して加害者達から行われた行為が「いじめ」であることに疑いようはありません。
且つ今回の事件はいじめにおける重大事態に該当すると思われます。
重大事態についてです。
第二十八条 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
ー文部科学省別添3 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
上記の一にある心身に重大な被害が生じ、二にある長期の欠席も満たしており重大事態の要件も満たしています。
繰り返しますが学校側はなぜそれを認めないのでしょうか?
そこで学校側の立場になって考えてみました。
いじめの重大事態が起きた際に学校が行うこと
・いじめの調査
・教育委員会への相談と支援の依頼
・地方公共団体の長への重大事態発生の報告と結果の報告
(「いじめの重大事態に関するガイドライン」第3重大事態の発生報告を参照)
以上の作業が発生します。
ここからは想像です。
教師は多忙です。
担任教師もデートする時間の確保に必死です。
いじめの内容は犯罪行為が含まれた深刻なものです。
犯罪行為も含まれているので警察とも連携しないといけません。
面倒です。
しかしいじめ自体が起きていないことにしたらどうでしょう。
以上の煩雑かつ困難な作業が全て消滅します。
では、どうすればいいか?
爽彩さんが川に飛び込んたことで警察が保護した際に警察から学校へ齎された報告です。
・爽彩さんが「お母さんに会いたくない」と言っている。
・爽彩さんが「いじめではない」と言っている。
以上の報告内容から、学校側は考えます。
これは家庭内での児童虐待であっていじめではない。
そうすれば事件は児童相談所がやることで学校は何もしなくて済む。
しかし児童虐待の疑いは晴れてしまいます。
再び学校側は頭を抱えます。
爽彩さんに対して加害者達が行っていたことは疑いようなく「いじめ」です。しかも重大事態に十分該当する内容です。
そうなった場合、重大事態に基づいた調査が行われることになります。
そうなるとどうなるでしょう?
いじめの重大事態の調査に関するガイドラインには教職員への処分の項目があります。
そこには教職員に対する聴き取りを行ったうえで客観的に事実関係を把握し、教職員の懲戒処分等の要否を検討すること。とあります。
保護者から担任へいじめに関しての相談が複数回行われています。いつの段階からかは知りませんが今回のいじめについての対応が教頭や校長が行っていることから川に飛び込んだ頃には学校全体でも情報が共有されています。
つまり学校側が爽彩さんのいじめ事件を認めると重大事態の認定へと繋がり、それは重大事態に基づいた調査に移行が為され、そこで学校側が何もしていなかったことが露呈するのでそのまま学校側に対しての懲戒処分が決まる公算が高いということです。
ここで学校側は引き返すことが出来る地点を超えていると判断したようです。
学校側は次に警察から受けた報告をいじめがなかった根拠にすることを決めます。
・爽彩さんがいじめではないと言っている。
この報告を警察のお墨付きとすることにします。
しかも児童相談所は母親と爽彩さんが会えないように措置を取っている。
このあと虐待についての嫌疑は晴れていますが、きっと見落としがあるに違いありません。加害者と言われる生徒たちも母親から虐待を受けていたと答えている。その後に加害者たちは爽彩さんの自慰画像を所持し且つグループLINEで拡散し、教頭もその画像の存在を母親から知らされて教頭の携帯のカメラで撮影していますが小さなトラブルに過ぎません。教師は生徒を信じるものなのです。加害者呼ばわりされる生徒たちこそ被害者です。しかし行き過ぎた部分も多少はあるので指導の必要があることは認めます。加害者生徒たちも根が悪くないちょっとやんちゃな連中だから少し言えば悔いてくれる。
それに別に更生しなくても、主な加害者生徒達は3年生なのであと少しすれば卒業していなくなってくれますから学校としては少し時間を引き伸ばせば解決です。
問題は爽彩さんが退院した後です。
学校側はここで次の手を打ちます。
母親には学校は彼女が戻ってくることを待っていると伝える。
併せて伝えたのではないでしょうか。
加害者たちにはよく言い聞かせました。
猥褻画像だって消去させました。復元してまたばらまかれていますが加害者生徒たちの年齢から言って法で裁くことは出来ないのだから仕方ありません。
残念ですが、もう学校でやれることはありません。
ここで振り返ってみましょうか。
爽彩さんを追い詰めていたのは下記2点です。
・加害者の存在
・画像の存在
両方とも依然として存在しています。
普通に考えれば、そんな所に親が子供が行くことを許す筈がない。
学校側が何もしなければ爽彩さんが不登校になるか転校するかのどちらかになる公算が高くなります。
不登校になれば適当に時間稼ぎをしている内に勝手に卒業していなくなってくれるので問題は解決します。
転校してくれれば問題が速やかに消滅するのでベストです。
つまり学校が打った次の手とは何もしないことで爽彩さんが学校に登校できないことを見越して問題を消滅させることへと導くことでした。
以上のように考えると学校側がいじめを認めなかった理由は自己保身のためであったと考えるのが妥当なようです。
本来であれば重大事態となった場合、学校は心理的なケアも含めて被害児童である爽彩さんへの専門的機関による支援へ繋げる努力を行うことも定められていました。
学校側が「いじめ」を認めていればです。
その後、文春の報道から後、
2021年4月23日 文部科学省より教育委員会に対し事実関係の確認指示
2021年4月27日 旭川市教育委員会が「重大事態」であることを認定
2021年5月 第三者委員会による重大事態による調査を行う
以上が決められたことで少なくとも「いじめ」が起きていたこと、且つそれが重大事態に値するものであったことが公に認められました。調査結果から学校側への懲戒も為されることになるのは間違いなさそうです。
最後に廣瀬爽彩さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。