愛知県知事リコール運動で署名を偽造するという時限爆弾をセットしたのは誰なのか?

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高須クリニックの高須克也氏が2019年8月1日に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由をテーマにした企画展の展示物について責任を問いたいと「お辞め下さい大村秀章愛知県知事 愛知100万人リコールの会」を立ち上げ、そこに名古屋市長の河村たかし氏も活動に加わってリコール運動が行われましたが期間途中の11月4日に高須氏の体調を理由に署名活動を停止。
2021年2月1日に愛知県選挙管理委員会が高須氏側から提出された署名の内8割が無効とする調査結果が発表され後味の悪い結果に終わったかに見えました。

高須氏側から提出された署名の内訳(愛知県選挙委員会調査結果)

 

必要な署名数 約860,000
集められた署名数  435,231
集められた署名の内無効とされた83,2% 約362,187
無効の内90%は複数の同一人物が書いたもの 約325,968
無効の内48%は選挙人名簿未登録 約173,849
県選管に認められた署名数  約73,044
リコール運動に関与した人数  約70,000
運動に関与した人が1人あたりが集めた署名数 約1.04人

(パーセンテージは県選管発表、実数は署名数に掛けて算出、リコール運動に関与した人数は高須氏側弁護士の発表によるもの)

 

署名偽造が告発されるまでの経緯

こうして一旦は終わったかに見えたリコール運動ですが思わぬ発展を遂げます。

2021年2月1日愛知県選挙管理委員会から署名を精査した結果が発表される
2021年2月3日と5日に自分の名前が勝手に書かれたとして其々何名かの市議が訴える
2021年2月12日高須氏側も偽造された署名を勝手に紛れ込ませてリコール運動を妨害されたとして告発
2021年2月15日愛知県選挙管理委員会も告発
2021年2月16日西日本新聞に署名偽造を行った作業者から情報が寄せられ実際に団体の事務局関係者が署名の偽造を名古屋の広告関連会社に依頼し佐賀県の佐賀市内の貸会議室に人材紹介会社によって集められた人たちによって署名が偽造されたという報道がされる

こうしてリコール運動の署名偽造を作ったのは誰なのかについて第2ラウンドが始まります。

この件についていくつか疑問に思った点があったので書いてみます。

本当に署名偽造は行われたのか?

これについては実際に署名偽造の作業を行ったという人物が複数名インタビュー等に答え10月中旬の日付で出された発注書も愛知県警が任意で提出を受けているということなので署名の偽造が行われたのは間違いないようです。

署名偽造を依頼したのは誰か?

これが今回の件を書こうと思った一番の疑問点になります。
なぜ署名偽造を依頼したという疑問が沸くのかという部分になるのですが下記の報道が気になったからです。

 

「最初にこのアルバイトを口外してはいけない、と名前と住所つきの誓約書を書かされ、携帯などの私物はビニール袋に入れて一番後ろの机に置くよう指示されました」

案内された机上には、愛知県の人たちの住所の記されたA4サイズの名簿、そして高須院長や河村市長の顔写真が載っている署名紙と、ボールペンがあった。そのときはじめて、県知事リコール署名に関連した作業であると気がついた。

引用元「8時間で250人書き写した」愛知リコール署名偽造、バイト男性は「人気案件」と証言-BuzzFeed Japan

 

署名偽造の現場

杜撰な作業です。作業者達が始めに仕事の内容を口外しない旨の誓約書を書いていたとしても明らかに違法な内容であれば警察に密告する可能性がありますしネットの匿名性を利用して暴露される可能性も十分にあります。今回は実際にマスコミにリークされています。
誓約書の内容からすると署名偽造を計画した側は署名の偽造を行わせていることを隠す必要があることを理解しているにも関わらず署名を書かせる用紙に高須氏の画像が印刷されている理由も分かりません。
署名用紙のフォーマットがあるというならはじめは署名する枠だけ印刷したものに署名を書き写させた後に再度画像を印刷すれば作業者には何の署名を書き写したのか分からせずに済みます。私が少し考えて思い浮かぶ位なので署名を偽造をしようと考えている人が偽装を上手く隠蔽する手段が思い浮かばないとは考え辛い。
どうも参加者に署名偽造について暴露して欲しいという意図があったように思えてならないのです。

署名偽造の担当者はなぜこのような形を取ったのか?

署名偽造の担当者が作業者達になぜ明らかに愛知県知事リコール運動の署名を偽造する現場であることが分かるようにしたのか理由を考えてみます。
1、単に抜けた人だった
2、署名偽造に加担したくないという良心から
3、正義を執行していると思っているので説明すれば作業者達も分かってくれると思っていた

署名を偽造した現場の人員について

署名偽造に必要な人的リソース

署名偽造を行ったバイトの作業員が8時間で250名の署名を書いたという証言から
作業日数3日で750名の署名を偽造
偽造したとされる署名数約391,707筆
これを偽造するのに必要な人数が約522人
必要な人数を3日間で割ると1日あたり174名

会場になったとされる会場を調べてみると大会議室と中会議室と小会議室の3室で合計170名、無理矢理詰め込めば174名を確保できそうです。
現場を監督するのに小と中の会議室にそれぞれ1名で計2名、大会議室で3名程度と全体の指揮を執る人間と+アルファで休憩時等の交代要員を数名と考えると現場スタッフも10名程度はいたのではないかと思います。

署名偽造にあたっての予算について

一日あたりの賃金は時給950円×8時間で一日7600円
それを174名分で合計132,2400円
人の手配をした会社が3割程度抜くと仮定して総額約189,000円
会場費は3日貸切で7、80万程度と仮定。
他に諸々の経費が加わると考えると署名偽造を行わせるにあたって掛かった費用の合計はおおよそ300万から400万の間程度になるのではないでしょうか。

以上のように考えると掛かる人的リソースと予算の大きさから見て組織だった動きであったと考えて間違いなさそうです。

よって「1、単に抜けていた人」と「3、正義を執行していると思っているので説明すれば作業者達も分かってくれると思っていた」については他のメンバーからフォローが入る筈なので除外。残る「2、署名偽造に加担したくないという良心」からという理由も、本気でそう考えているなら全容をマスコミにリークする等の行動に出ていそうなものですが現時点であらわれていないので除外(同じ筆跡と思われる署名を抜いて高須氏から叱責を受けたという人は会場スタッフ末端の一人に過ぎないと思うので)

署名偽造は高須氏側の指示によるものとして考えてみる

書名を偽造させるための発注書の日付が10月中旬頃で実際に署名を偽造する作業が行われたのは10月22日から10月24日の3日間。高須氏の体調不良でリコール運動が終了したのが11月4日。偽造しても勝てないのにわざわざ署名を偽造させる理由があるのか?という疑問に行き着きます。署名が法定数に届かなければ審査されないので高須氏が負けた際に実績として恰好をつける為に行ったのではないかという報道も見るのですが、負けると分かっている勝負に数百万も資金を出すのか?と考えるといくら高須氏が富豪であるとは言え不正に手を染めさせる理由としては弱いと感じます。それに実際に実行しようとすれば不正署名の担当スタッフだって負けると分かっているのに自分も罪に問われる可能性のあることなんかしたくないと高須氏に署名を偽造する作業の中止を必死に訴えている筈なので、やはり納得できない部分になります。

少なすぎる署名数

他に疑問点として思い浮かぶのは集めた署名の少なさです。
高須氏側が集めた署名で県選管に認められた署名数73,118でリコール運動に関わった人数が高須氏側が伝えた70,000人で考えると一人頭署名を1.04人しか集めていません。
2020年8月25日リコール活動による署名集め開始
2020年10月25日署名活動終了
(同時期に首長選挙が行われていた岡崎市、豊橋市、稲沢市、知立市、豊山町を除く)
2020年11月4日署名を選挙管理委員に提出
署名活動が2カ月行われたにしては余りにも少ない。
実際に署名集めを行ったのを100分の1の700名にして計算しても一人当たりで集めた署名数104名。それを2カ月の60日で割ると1日あたり1.73名。
土日祝日だけに換算しても21日あるので一人あたり4.9名しか集めていない。
そんなに少ないの?というのが素朴な疑問でありリコール運動を展開していた高須氏からすれば本当に集まった署名と偽造された署名が入れ替えられてリコール運動を妨害されたのではないかと思うのも無理はありません。
この少なすぎる署名の数が高須氏側の問題なのか愛知県選挙管理委員会の問題なのか、それとも今回の一件とも何か関わりがあるのかは気になる所です。

しかし現状では高須氏側が署名を偽造させていないと断定はできません。

大村知事側が署名を偽造させたと考えてみる

巷では高須氏を嵌める為に大村氏側が仕組んだスパイによる仕業という意見も見られます。
この説については高須氏がリコール運動を成功させそうになっている状況か大村氏へのリコール運動が成功して実際に解職させるための選挙が行われているのであればリコール運動によって提出された署名は偽物であるとしてリコール活動を無効化させる為の保険として仕込まれていたのだろうという可能性としては理解出来ます。
しかしリコール運動は既に失敗に終わっていますし発注されたという10月の時点でリコール運動が成功するかどうかの見当はついていたのではないかと思います。更に言えば高須氏は高齢者でおまけに癌患者です。放って置けば勝手にこの世からいなくなってくれるので焦らず騒がず触れずに待つことが最善手であるように思えます。
現にコントロール出来ない状態で署名偽造の件が露呈したことで高須氏側を刺激して過去の問題で脚光を浴びることは大村氏側にとっても望ましいこととは思えません。
更に言えば自分が仕込んでいたものを暴露させるということは自分が仕組んだということが露呈する可能性もあるので尚更やる意味がありません。
私が大村氏側としてこれを行うなら、作業者達に署名の偽造であると分からないようにしてリコールが成立しそうな状況になった時かリコール運動を受けた選挙が実際に行われるというタイミングで送り込んでいたスパイから高須氏側の内部暴露として署名を偽造させられたと公表させますが、それ以外なら署名を偽造させる依頼等は行わなかったことにします。
つまり今回の署名が偽造されたことを時限的に暴露される仕込を行う理由は大村氏側にとってもメリットとして薄い。
よって大村氏側が行った可能性も否定できませんが少なくとも今回の一件が狙って行われたものではないというのは間違いないようです。

最後に

このように遅かれ早かれ署名を偽造したことが暴露される時限爆弾をセットしたのはいったい誰でどんな理由によるものだったのでしょうか?
それとも今回の一件は単に実行者の考えが足りていなかっただけで、まさか署名を偽造した作業者からメディアに情報提供されると思わなかったという単純な手落ちによるものなのか?
いずれにせよ今は警察の捜査結果を待ちたい所です。

それでは今日はこの辺で