騒音問題で地方自治体に対応を拒まれて困っている時にみてください

川口市役所 騒音

騒音等の被害に遭って地方自治体の窓口に相談して、規制対象外であるとか、これ以上できることはないと対応を断られた人の役に立てればと思います。

行政から対応を拒否されたケース

私のケースをあげてみます。

自宅前にイオングループのまいばすけっとがオープン。
まいばすけっとの設置した室外機からの騒音と低周波音および振動に悩まされることになりました。

そこで川口市の環境保全課に相談しました。
結果は規制地域外とのことで苦情が出ていることしか伝えて貰えませんでした。
というのも私の住んでいた地域は商業地域。

川口市環境保全課からは
騒音について
商業地域の夜間の規制基準(50dB)は20台以上駐車できる駐車場がある大型スーパーやファミリーレストラン等は適用される。
しかしまいばすけっと西川口駅東店は駐車場自体が無いので規制対象外。
任意の改善は求めている。

低周波音について
低周波音について規制基準が無いので対応しない。

以上のようにまいばすけっとに対して与える罰則は無いと対応を拒否されました。

しかも川口市環境保全課がまいばすけっとに行った任意の改善を求めるというのは最悪のアドバイスでした。

任意:相手の意思に任せること。勝手に選べること。
つまり今回の騒音問題について
まいばすけっとは川口市役所から解決しなくても良いとアドバイスを受けているということです。

当然ですが問題解決には費用が掛かります。
相手は利潤を求める私企業です。
まいばすけっとの選択は解決しないでした。

後日まいばすけっとから以下のような内容のメールが送られてきます。
川口市環境保全課から規制値に満たない騒音なら解決しなくて良いと言われたのでこれ以上の対応はしません。

これに私は途方に暮れることになります。

しかし本当に打つ手が無いのでしょうか?
巷のニュースでは低周波音で裁判を起こして勝訴した等と流れていた記憶が蘇ります。

規制対象外でも対応する義務のある地方自治体

そもそも公害とは?

そこで私は手探りですが法律等で何か無いかと調べ始めます。

先ず環境基本法です。
概要は後で述べるので法令の中身は読み飛ばして大丈夫です。

(定義)
第二条 この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
2 この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。
3 この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。第二十一条第一項第一号において同じ。)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう。

「環境基本法」e-gov法令検索

先ず2項に「地球環境保全」は国民の文化的な生活の確保するものを言う、環境保全課の環境保全はここから取っているんですかね?
それはさて置き、要は居住地域の環境保全課は私たちが健康に暮らせるよう努力する義務があると書いてあります。

次に3項では公害について定義しています。
中でも“事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる”の一文は注目に値します。

一般家庭からのものも公害になる

「事業活動その他の人の活動」の中にあるその他の人の活動、これは企業に限った話でなく個人の生活による活動もこれに当て嵌ります。
以前、エコキュートから発する低周波音による被害が話題になりましたが、この時の被害者の殆どは地方行政の支援を受けることが出来ていません。おそらく相隣関係に行政はタッチ出来ないとでも言われて断られているのではないでしょうか?
しかしこの条文を見ると行政は個人と個人の問題であっても対応する責務は負っていることが分かります。

一般家庭からの騒音による公害紛争の解決に際しては、審査会等の調停は有効な手段であり、実際にこれに関するいくつかの事案が審査会等において解決をみています。

よくあるご質問「一般家庭から生じた騒音の取扱い」公調委

引用では調停となっていますが通常の流れなら地方自治体の相談窓口での対応を経た上で進むのが調停なので地方自治体が公害として対応した上での回答と捉えて間違いありません。考え方としては個人と個人の場合は話し合いや例えば低周波音の原因となっているエコキュートの設置業者と交渉したりといったことも手段の一つとして入って来るので地方行政は適切な選択肢を示して対応するという流れになるのだと思います。
従って一般家庭からの騒音などの問題も環境保全課は対応する義務があります。

公害の相当範囲とは

厳密に何mから相当範囲なるのかという定義はなされていません。

「相当範囲にわたる」については、人的・地域的に広がりある被害を公害として取り扱うという趣旨で、被害者が1人の場合でも、地域的広がりが認められる場合は、公害として扱われます。
 また、被害は、既に発生しているもののほか、将来発生するおそれがあるものも含まれます。

「公害とは?」公調委


過去の裁定の事例を見てみると
鎌倉市でドッグスクールを相手取った裁定事例があります。
この事例では夜間帯に50㏈ないし55㏈の騒音値です。
騒音の測定場所についての明記はありませんが、通常の騒音測定は騒音元の直近敷地境界で測られるので概ね環境基準を超える値の発生があれば騒音の場合は音の強さによって遠くに響くものという特性から環境基準を超えるものが確認されれば公害として対応して貰えると思って良さそうです。

少なくとも地方自治体の環境保全課がこれは相当範囲に入りませんと軽々に言えるものでないことは間違いないようです。

しかも一つ付け足せば騒音に数値による定義は定められていないというのも重要なポイントです。

鎌倉市における騒音等による健康被害等責任裁定申請事件(平成25年(セ)第21号事件)裁定書PDF

騒音環境基準

騒音環境基準

低周波音についても対応義務がある

環境基本法に低周波音が公害に含まれているとは書かれていません。そこで調べてみると、これも公調委のホームページに記載があります。

「低周波音による紛争もそれ単独では先述の公害類型には該当しませんが、騒音・振動に関係するものと考えられる場合は公害類型に該当し、制度の対象になります」

「公害とは?」公調委

更に環境省から低周波音の手引きという地方自治体に向けた資料も公開されています。
低周波音問題の手引き

以上のように行政は低周波音についても対応する義務があります。

しかし、これは保証しても良いですが低周波音について相談すると100%嫌な顔をされます。
そして中核都市で公害相談員が置かれていようが何だろうが99%は先ず対応を断って来る筈です。
実際に測定等を行っていた人に聞いた話から推測すると、低周波音の測定は低周波音を測定できる機器が必要です。更に通常の騒音測定と比較すると技術的に難しい。

少しつっこんだ話をすると地方行政の担当者は3年もすれば異動します。彼等は面倒なことをしたくありません。どうせ使わなくなる技術を覚えたくない。しかも公害相談を口先で「規制外なので対応できませんね」等と言って処理出来れば上司から効率的に苦情を処理できるとして評価された上に余計な手間も掛かりません。騒音などに困って相談する地方行政の背後にはこういった事情が存在していることは念頭に置いておきましょう。
低周波音の相談をして一発で測定まで行ってくれる担当者もいるとは思いますが、それは稀なケースです。

公害は分かったけど罰則が無いなら仕方ないのでは?

まず私の例で説明すると騒音元はイオングループのまいばすけっと西川口東店。
つまり事業活動を行う事業場です。
まいばすけっとが夜間帯に於いても発生させている騒音は2022年6月27日23時09分に騒音計で計測した数値が59.9dB。

2022年6月27日23時09分 騒音計で計測

2022年6月27日23時09分 騒音計で計測


夜間(午後10時から午前6時まで)の規制値は50dBです。
公害と判断できそうです。

この条例に基づいた対応をお願いしますと言った所で罰則は存在しません。

しかし環境基本法です。
下記の第7条では地域ごとにの事情に応じて解決する責務があると書いてあります。
常識的に考えるなら先ずは行政指導、それでも相手が問題を解決しないなら条例などの策定などの手段を取る。つまり行政は公害問題を解決しないとならない。

(地方公共団体の責務)
第七条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、環境の保全に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

「環境基本法」e-gov法令検索

また企業も下記の法令によって公害問題について解決を図る責務を有しています。

(事業者の責務)
第八条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
2 事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。
3 前二項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷の低減に資するように努めるとともに、その事業活動において、再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、役務等を利用するように努めなければならない。

4 前三項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、これに伴う環境への負荷の低減その他環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。

「環境基本法」e-gov法令検索

以上のように罰則が無くても地方自治体と企業は公害等の環境問題について対応する責務を負っています。

更に居住地域には環境保全条例というのが存在しています。次に挙げる条例は埼玉県のものですが東京都の環境保全条例でも同様のものが存在しているので他の地方自治体でも定められている可能性が高いのでチェックしてみてください。

(夜間の静穏保持)
第六十五条 何人も、夜間(午後十時から翌日の午前六時までの間をいう。以下この条及び次条において同じ。)においては、住宅の集合している地域、集合住宅内又は道路その他の公共の場所において、みだりに付近の静穏を害する行為をしてはならない。 2 複数の事業者が営業を行う建物内又は他の者の住居が併設された建物内において夜間に営業を行う者は、当該建物内における静穏の保持に配慮しなければならない。

「埼玉県環境保全条例」

これも罰則自体はありませんが、地方自治体と事業者の両者に騒音問題の解決に向けて対応する義務を課している条例になります。

一番重要な公害紛争処理法第49条 公害相談

先に挙げた通り地方自治体と企業は公害問題に対する対応する責務はありますが環境基本法に罰則は設けられていません。
これは地域の事情に応じて地方自治体が条例を設けなくてはならないのですが、それも拒まれれば最後です。
そこで下記の公害紛争処理法第49条公害相談です。

(苦情の処理)
第四十九条 地方公共団体は、関係行政機関と協力して公害に関する苦情の適切な処理に努めるものとする。
2 都道府県及び市町村(特別区を含む。)は、公害に関する苦情について、次に掲げる事務を行わせるため、公害苦情相談員を置くこと
ができる。
一 住民の相談に応ずること。
二 苦情の処理のために必要な調査、指導及び助言をすること。
三 前二号に掲げるもののほか、関係行政機関への通知その他苦情の処理のために必要な事務を行うこと。

公害紛争処理法 | e-Gov法令検索


ぶっちゃけて言ってしまうとこれが厳密に運用されれば殆どの公害は解決するのではないかと思うほど重要な法令です。

しかし敵も去るものではずれの自治体にあたった場合、怠慢を正当化したい行政はおざなりな形だけの対応で、もう可能な限りの対応はしました等と言って終わらせようとして来ると思います。

この法令を作った人はそういった地方行政の実態を理解した上で作った頭の良い人なんだとも思うポイントです。

この条例に一度やって解決出来なくても終わりとは書かれていません。

つまり解決されるまで行政は努め続ける必要があるとも読み取れます。

現在も私の騒音問題は解決していませんし低周波音の測定も当然されていません。それ所か騒音の測定すら川口市環境保全課の方針とやらで行われておらず、騒音元のまいばすけっとからは何もしませんしこれは市役所から相談を行った上での対応ですと言われる始末です。私と環境保全課とのやり取りは川口市の不備を指摘して川口市環境保全課がその言い訳に終始するといった有様ではありますが少なくとも門前払いされる状況からはこの公害相談が存在しているお陰で脱することが出来たのです。

最後に

この記事で一番重要なのは公害紛争処理法49条公害相談です。
極論、これをごり押しするだけで普通の地方自治体で普通の担当者なら大抵の公害問題は解決するんじゃないかと思う程です。
そして地方自治体は公害問題に対して対応して罰則を与える法令や条例が無くとも解決に導く義務があり、それを義務付ける法令も存在しているということです。
これを念頭に置いて臨んでいけば門前払いの対応は避けられると思います。

しかし最後に言っておきます。公害相談の敵は騒音元の企業と、外れの自治体なら公害対応を拒もうとする居住地域の環境保全課です。公害問題を解決するというのはある種の戦いだと理解して挑むことを強くお勧めします。

それでは今日はこの辺で