発生した騒音問題が法令や条例の罰則対象外でも行政が取り組まなくてはならない理由

放置される公害問題 騒音

騒音や低周波音といった公害問題に悩み居住地域の環境保全課に相談に行ったら「騒音規制法と条例の規制対象外なので対応出来ないです」と断られた際に読んで貰うと良いと思います。

法律で規制する前は地方行政で対応していた公害問題

騒音などの公害問題について対応する法律の制定された順序です。
公害対策基本法(昭和42年公布・施行。環境基本法制定に伴って廃止)
環境基本法(平成5年制定)
騒音規制法(昭和43年公布・施行)

騒音規制法は公害対策基本法の実施法という位置付けのようです。
環境基本法は公害対策基本法に代わって平成5年に施行されています。

それまで公害対応はどうしていたかと言えば地域ごとの自治体が条例によって規制して対応していました。

おそらくですが立法にあたって現存する条例との整合性が取れなくなってしまっても困るという事情があったのか騒音規制法は騒音に関する全ての規制を定めるということは行わず、騒音規制法で定めたもの以外は地域ごとの実情に応じて対応して欲しいというのが国の方針のようです。

冒頭でも書きましたが自治体によっては騒音などの相談を地方行政に相談しても騒音規制法の対象外ということで対応を断っているケースも多いです。

公害問題に対応する公害等調整員会が編著にあたっている「解説公害紛争処理法」でも下記のように地方自治体に相談があれば対応するように書かれています。
(騒音規制法等の対象外であるケースや規制基準に達していない場合が苦情の殆どを占めていることも一緒に書かれています)

相手方の行為が規制対象でない場又は仮に規制対象であっても規則基準に違反していない場合(これらが現実の公害苦情の七~八割を占めている。)は、客観的には、民事紛争の解決について行政当局の協力を求めていると解すべきものであるから、そのような理解に立って処理に当たらなければならない。

「解説公害紛争処理法」公害等調整員会事務局 p274

業者の自発的な解決という苦肉の策

他にも騒音を起こしそうな状況があれば業者に公害防止協定を結ばせることで業者が自発的に対応するという苦肉の策も取られています。
これは昭和39年横浜市と株式会社電源開発とで結ばれたものが初めのものと言われています。

条例で取り締まるとは言え、それにはどうしても時間が掛かります。
その間も公害は置き続けるのですから、国民から見ればそれは行政の怠慢と映ります。
そうなれば行政責任を問われる事態に発展する可能性もあります。
しかし起こり得る全ての公害に対して予め条例を制定して置くというのも難しい。
そこで苦肉の策として取り結ばれたのが公害防止協定です。
これは苦情を受けた行政が事態の調査を行い解決に向けた助言や指導を含めた行政指導を行った上で事業者が自由意思で解決するという流れになります。

また環境基本法ではこれを包括して地方と協定を結ぶ手間を省こうという意図だと思うのですが環境基本法の8条で事業者は公害対応する責務を負うように定めています。

(事業者の責務)
第八条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
2 事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。
3 前二項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷の低減に資するように努めるとともに、その事業活動において、再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、役務等を利用するように努めなければならない。

4 前三項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、これに伴う環境への負荷の低減その他環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。

「環境基本法」e-gov法令検索

 

法令でも地方行政で対応するように決められている

他に地方行政についても環境基本法で何かありそうだと思って探してみた所、やはり地方行政に対してのものがありました。

(地方公共団体の責務)
第七条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、環境の保全に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

「環境基本法」e-gov法令検索

このように今まで通り地方行政でも対応するようにと念を押すように定められています。おそらくですが規制する法令が無いから地方自治体では対応できませんとして公害問題が放置されることを防ぐ為に決められているんでしょうね。

更に公害紛争処理法でも以下のように定めています。

(苦情の処理)
第四十九条 地方公共団体は、関係行政機関と協力して公害に関する苦情の適切な処理に努めるものとする。
2 都道府県及び市町村(特別区を含む。)は、公害に関する苦情について、次に掲げる事務を行わせるため、公害苦情相談員を置くこと
ができる。
一 住民の相談に応ずること。
二 苦情の処理のために必要な調査、指導及び助言をすること。
三 前二号に掲げるもののほか、関係行政機関への通知その他苦情の処理のために必要な事務を行うこと。

公害紛争処理法 | e-Gov法令検索


この公害相談の窓口は地方自治体の環境保全課です。
法令が定められる前から地方行政は公害相談にあたる行為を行ってきました。
地域ごとの環境保全課の窓口で市民からの苦情を聞いて、公害元に対して必要な調査を行うことで問題点を明確にして助言、もしくは指導して解決するよう依頼する。公害元がそれを拒むようであれば条例を作って取り締まる。これは公害紛争処理法の制定された昭和四十五年十一月一日以前から行われてきたことなので、これからも同じように解決の為にあたって下さいというものですね。
しかし穿った見方をすれば地方自治体が法令や条例で規制できないからと対応を断って怠慢を働かないようにする為の法令とも見れるので、この法令単体で罰則を与えることは出来ません。但し公害元の企業が行政の指導を受け入れず強制的な手段が必要であれば条例を制定するなどしてあたりなさいということなのでしょうね。

最後に

以上のように騒音公害に限らず公害問題は現時点での騒音規制法や振動規制法といった法令や条例で規制出来なくとも、地方行政の担当窓口である環境保全課は解決の為に行動し、強制力が必要になれば地域の事情に応じて条例の制定を以てして当たる等しなくてはならないということが分かりますね。

それでは本日はこの辺で

※他に手段としては調停や裁定、裁判といった手段もありますが、今回は地方行政の対応に主眼を置いたのでそれらについては除かせて貰いました。