個人的にQべえが好きです。あの一見するとファンシーなぬいぐるみのような見た目で親しみ易さを演出しながら「僕は君の味方だよ」という顔をして耳触りの良い言葉で少女達を誤解させることでミスリードを誘い、自分の都合の良いように事を運び、いざ都合の悪いことが露呈しそうになれば理路整然と自己を正当化して開き直る身勝手さには思わず「そこにシビれる!あこがれるゥ!」という賞賛の声を惜しまずにはいられません。
加えてよく見てみれば虚無としか言いようのない瞳には、可愛いと思っていたパンダの目をアップしてよく見てみると人を二、三人殺してそうだなと感じさせる部分に共通するものがあります。
もしも現実に彼が人間の男性として存在していたならば有能な男として鳴らして、やはりQべえが酷い目に遭わせた女性に腹を刺されること請け合いだなと思っている悲しい笑いです。
*この先は「魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語」を見ていることを前提として書いているため内容にネタバレが多く含まれているため注意願います。
前回、インキュベーターの作り出した外部環境遮断フィールドの破壊に成功して元いた世界に魔法少女達は戻ることに成功します。他の魔法少女達に見守られながら暁美ほむらは濁ったソウルジェムを手に横たわり、無事に円環の理に戻った鹿目まどかの迎えを待ちます。
まどかがソウルジェムに手を伸ばすと、その手をほむらは掴み「やっと掴まえた」そう言うとソウルジェムは更に濁りを増します。まどかはその反応に戸惑いますが抵抗する間もなく身体を二つに引き裂かれます。その様を見ながらほむらは「理解できないのも当然よ。ええ、誰に分かる筈もない。この想いは私だけのもの。まどかの為だけのもの」そう告げます。彼女のソウルジェムはその瞬間も色を変え続け、やがておぞましい色となり再び宇宙が作り変えられていきます。
その過程の中でまどかを想起させる色をした糸車は漆黒へと色を塗り変えられるとソウルジェムの中に閉じ込められます。糸車がポアンカレ予想の中にある宇宙の形を表していると考えると宇宙が塗り変えられた。つまりはほむらの手によって再び宇宙が作り変えられた。いえ、ここではやはり改竄という言葉がしっくり来ますね。
暁美ほむらは自らの手によって宇宙を改竄しながらQべえの傍に立ち誰に語り掛けるでもなく言います。
「思い出したのよ。今日まで何度も繰り返して傷つき苦しんできた全てがまどかを想っての事だった。だからこそ、今は痛みさえ愛おしい。私のソウルジェムを濁らせたのは、もはや呪いでさえなかった」
訳の分からぬままにQべえが「それじゃ、いったい」と口にする姿に振り返りもせずに「あなたには理解出来る筈もないわね。インキュベーター。これこそが人間の感情の極み。希望よりも熱く、絶望よりも深いもの。愛よ」
そう言うと自らの高揚を抑えられないように続けます。
「そうね。確かに今の私は、魔女ですらない。あの神にも等しく聖なるものを貶めて、蝕んでしまったんだもの。そんな真似が出来る存在は、もう、悪魔とでも呼ぶしかないんじゃないかしら」
同時にほむらが纏う衣服が露出の高いものに変化したのは、少女から女性へ変貌を遂げたということを暗に示しているのでしょうか。
この作品のテーマの中には魔法少女から魔女へと変わるのは成長を拒む、つまりはイノセンスのようなものが含まれているのではないかと思っています。
魔法少女の悪魔化は成長することのメタファー。
例えば、少女も年齢を重ねると共に、初めはどんなに無垢で純粋であっても成長するということは能力の向上だけが得られるのではなく、その成長する過程の中で敵わない相手が出て来ることで相手に嫉妬を抱いたり生きてい行く為に狡さのようなものを身に付けずにいられることは稀です。それらは時に醜悪なものであるという見方がされることは否めない事実であるようにも思います。少女達が成長する過程の中で汚れずに保ち続けた純粋さのようなものがソウルジェムの美しさだとするならば、やがてソウルジェムが濁るのは成長の過程を順調に歩んでいるとも言え、やはりその行き着く先が魔女であるとことは避けられません。魔女となったその姿は無垢な少女から見ればやはり醜悪なものに写り、今までの純粋な想いのようなものは変貌した中に呑み込まれ失われざるを得ないものなのでしょう。
ほむらは魔女化をも超えて悪魔化しましたが、その姿は従来の魔女のような変貌を遂げることなく自分の意思も失われていません。これは本来の願いを貫く為に醜悪さのようなものを流されたり諦めるではなく己として受け入れ、克服したということでもあるのでしょうか。
ある意味でまどかは円環の理となることで成長という軸から外れたことで変わらず少女のままです。
それに対してほむらは成長という汚れを始めの願いを叶える為の手段として己の中に隔離して呑み込むことで純粋さを保っているように見えます。
Qべえは魔法少女達の感情は危険すぎると言って、魔法少女を利用したエネルギー回収から手を引こうとするようなのですが、ほむらは「私たちの世界に沸いた呪いを処理するには、これからもあなたたちの存在が必要なの。協力して貰うわよ。インキュベーター」逃げようとするQべえを捕え、そう告げます。
インキュベーターは終始一貫して理性的であり彼が行おうとしていたのは感情を理性で制御する試みであったとも言えます(その行いが正しいか間違えているのかは別として)
しかし彼にとってほむらの悪魔化は完全なる誤算であり、今回の一件から感情というものを完全に理解することは出来ないことを悟ります。その利用から手を引こうとするも、その輪廻の輪から逃れ得ないQべえの姿は滑稽に写りました。
それでは今回はこの辺で
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